家のはなし 1

ここに我が家の新しい家が建つ。どの季節に行っても「早くここに住みたいな」と思う。小さいけれど私たちのお城です。
長野に土地を買った。
長野といっても軽井沢から少し行った移住者も多いけれど、
別荘も立ち並ぶほどよく人の気配のするところ。
どうしてそこに土地を買ったか。
その前になぜ地方に土地を持つ事にしたのか。。。
我が家はずっと家を持つ事にかなりの執着があって
以前は東京の私の実家近くに土地付き戸建てを買おうとかなり奮闘していた。
やっぱり作業をするには自分の使い勝手のいい、専用の部屋が欲しいし
自営なので退職金はない上に、うちの仕事的に経験を重ねれば収入も上がるとかそういう事もないので
早いうちに住むところは確保しておきたかったのだ。
夫からは以前から東京から離れたところは?と打診されていた。
でも生粋の東京育ちの私は東京を離れるなんて、と当時は考えた事もなかった。
そうして何年かが過ぎて、フィンランドに旅行に行った。
フィンランドと言ってもヘルシンキに滞在して電車で行ける範囲の郊外までが中心の旅だったけれど。
そこで私たちはヌークシオ国立公園というところへハイキングに行くつもりだった。
だけどせっかちな東京人はバスの待ち時間がもったいなくてタクシーで向かった。
そしてそのタクシーの運転手は私たちに間違ったヌークシオの入り口を教えて行った。
当然、スタート地点が違うのだから、いくら地図を見ても辿りつけるわけもなく
気付けば別荘地を5時間もさまようはめに。。。
そういうわけで私たちはプチ遭難してしまった。
でも、でも。。。すばらしかった。。。
タクシーが走り去ってエンジン音が聞こえなくなってからは
シーンって音ってこんな音!、というくらい鳥のさえずりがどこまでも聞こえ、空気は今まで吸った事のない新鮮さ。
しかもそれが首都から1時間ちょっとで体験できるなんて!
それにテクノロジーはすごく進んでいるのにサマーハウスはお風呂すらない(サウナはあるけれど)ような小屋だったりして
ここの人はその自然と共存している。無理なく。
きっと週末や夏はここに来て何もしないで過ごしたりするのだろう。
家の目の前がクリムトの絵のようなすばらしい湖だったりする小さな小屋の前を通り過ぎたりして
遭難していた割には結構楽しんだ。そしてその美しさは今でもしっかり覚えている。
別に自然と隣合わせなことを特別と思っているわけでもなさそうだけれど
でも大切にしているのはとてもよく伝わる、その自然との心地良い関係にふたりしてすっかり虜になってしまった。
こんなところに住めるのは幸せだと心から思った。
それから翌年。。。ベルギーに行った。
ブリュッセルに滞在したのだけれど、ここの印象は。。。あまり良いものではなかった。
パリやロンドンの様に刺激がたくさんあるわけでもなく、かといってヘルシンキのように自然が溢れているわけでもなく、街もきれいでないし。
私はその旅行中、ここの「everyday」を毎日あげたり、友達や母とメールのやり取りをしていたのだけれど
こんな風にどこでも日常とあまり変わらないなら、だったら東京に固執しなくてもいいかもしれないと思いはじめたのだった。
しかも私はその後すぐ妊娠を知ることとなった。
子供ができるわけだし自営の私たちが高額のローンを組んで家を持つ事に、リスクを感じる様にもなっていた。
家は持ちたい。でも何のゆかりもない東京の郊外に予算の都合であまり好ましくない家を買うのは
ベルギーで感じた違和感をお金を出して感じて過ごすのと同じかもしれない。
それに東京の良さは実家に泊まりに来たりする短期間で味わえると思うけれど
自然の中で(しかもそれがあんなフィンランドのようなところだったら!)育ったら
きっと素敵な幼少期になるのでは?と思った。
思いきって東京を離れよう、子供も産まれるわけだし、フィンランドのような自然の多いところに家を持とう、
という気がむくむくわいて夫に相談したら「それなら軽井沢はどう?」と勧められた。
夫曰く、軽井沢は東京から新幹線で約1時間。
車もないとなかなか厳しいけれど、でもそれは東京の郊外もわりと同じ。冬は厳しいけれど。
それに混んでいる時期は佐久方面に逃げればいいし、わりと移住者も多いらしい。
カルイザワ、なんてちょっとバブリーな匂いがして最初はえ〜?っと思ったけれど
裏を返せばスーパーなどには東京と同じようなものが並んでいたりと暮らすには便利そうだ。
オリーブオイルを買うのに車で30分走る、とかの暮らしはごめんだ。
別に山のふもとで自給自足したいわけでは全くないのだから。
それに大切な幼稚園や小学校も各駅にあるし、悪くないかも。
自然の中で暮らせるのに、それほど不便を感じずに暮らせそうだ。
そんなわけでベルギーから帰った翌月には物件を見に行っていた。
親切な不動産やさんが軽井沢中を3時間くらいかけて車で案内してくれて
移住するならこの辺りがいいですよ、とかいろいろ教えてくれた。
そのまわってくれたエリアはまさにフィンランドの雰囲気で、行く前は冷やかし半分だったのが
終わりの方にはここに住みたい!という思いに変わりはじめていた。
それから運命の出会いと私たちは思っている今回買った土地に出会い、長野移住計画が始まった。
そこは人の気配もそこそこあり(つまり雪かきの心配もない)、ブランド別荘地からは離れているため比較的静かだ。
正確には移住はまだまだ先になると思うけれど
でも子供が小さいうちに自分達の「好きな感じ」をたくさん取り入れた家に
たくさんの思い出を作れたらいいなと思っている。

これが遭難しかけた時に出会った風景。。。
つづく。。。